胃脘痛(胃痛)

胃痛(胃脘痛)

剣状突起直下から臍部までの 部位を胃脘という。胃脘痛は胃脘部の疼痛を主な症状とする病症である。

消化不良、急性 、慢性胃炎、神経性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃下垂、胃粘膜びらん、胃癌、肝、胆、膵臓疾患にみられる胃脘痛の治療には本章を参照する。

 

胃痛の原因を表した図

 

<弁証論治>

胃脘痛の臨床弁証の主旨は、病邪(寒邪、熱邪、食滞など)、臓腑失調(肝気鬱結、脾胃虚弱)、虚実(脾胃陽虚、胃陰不足、病邪、肝鬱、肝火、)段階(気滞、瘀血) を弁別することである。

 

弁証の要点

実証の胃脘痛は拒按であり、摂食すると疼痛が増悪する特徴がある。虚症の胃脘痛は喜按で脘あり、食後に疼痛が軽減することが多い。

隠痛は虚寒証に多く、拘急する激痛は寒邪による胃脘痛に多く、固定性の刺痛は瘀血に多く見られる。脹痞満を伴うのは食滞に多く見られる。

胃脘痛の治療原則は「通」である。常用治療法は理気、温散、消食、疏肝、清熱、化湿、活血 、養陰、温陽などがある。

 

1.寒邪客胃

【症状】突発性胃脘痛、寒さを嫌う、喜暖(胃院部が温まることによる痛みの緩和)、冷えによる痛みの増悪。口渇なく、喜熱飲、苔は薄白、脈は弦緊である。

 

【証候分析】寒邪は収縮、凝固、収斂の性質をもつ。寒邪犯胃、陽気運行阻害、気機阻滞、胃失温養のため、急性の胃脘痛をみる。寒邪は温熱で散り、陰寒で凝固するため、胃脘部を温めると痛みが緩和、冷やすと痛みが増悪する。口渇なく熱い飲み物を好む、苔が薄白で、脈が弦は寒邪の証候である。

 

【治法】散寒止痛。

 

2.飲食停滞

【症状】胃脘痛、脘腹脹満、げっぷ、口気が臭い、不消化物を吐く、嘔吐後または排気後の症状緩和、排便困難。苔は厚膩、脈は滑である。

 

【証候分析】暴飲暴食、飲食物が胃に停滞、気機阻塞のため、胃脘部痛、脘腹脹満をみる。脾胃健運失司、水穀腐熟不能、濁気上昇のため、口気が臭く、嘔吐をみる。嘔吐、排気によって気機が回復し、症状緩和をみる。飲食停滞、胃腸伝導失司のため、排便困難が見られる。苔が厚膩、脈が滑は食積の証候である。

 

【治法】消食導滞。

 

3.肝気犯胃

【症状】胃脘部脹悶、遊走性の痛み、痛みが脇まで放散、げっぷ、あるいは便秘。情緒不安定による発症が多い。 苔は薄白、脈は弦である。

 

【証候分析】肝は疏泄を司り、条達を好む。情緒不安定で肝気鬱結、疏泄失司、横逆犯胃、胃気阻滞のため、痛みが生じる。肝気鬱結のため、肝経分布部位である脇部に痛みがみられる。気機不利のため、頻回にげっぷをする。大腸気滞、伝導不能のため、便秘をみる。げっぷや排気で気機が一時的に改善されると胃脘痛が軽減する。弦脈が肝の主脈であり、疼痛も主る。

 

【治法】疏肝理気、和胃止痛。

 

4.肝胃鬱熱

【症状】胃脘部灼熱痛、緊迫した痛み、煩躁、易怒性、距酸、嗜雑、口乾、口苦。舌質は赤、苔は黄、脈は弦または数である。

 

【証候分析】肝気鬱結、久鬱化火、肝火犯胃のため、胃脘灼熱痛、緊迫した痛みが見られる。肝火上逆のため、煩躁、易怒、泛酸嘈雑をみる。肝と胆は表裏関係であるため、肝胆火旺のため、ロ乾、口苦が見られる。舌質が赤、苔が黄は裏熱、脈が弦数は肝胃鬱熱の証候である。

 

【治法】疏肝、泄熱、和胃。

 

5.瘀血停滞

【症状】胃脘刺痛、痛みの部位の固定、拒按、夜間痛、食後増悪。あるいは吐血、黒便。舌質は紫暗、脈は渋である。

 

【証候分析】気は血の帥である。気滞日久、血瘀内停のため、瘀血による痛みがみられる。舌質が紫暗、脈が渋は瘀血の証候である。

 

【治法】活血化瘀、理気止痛。

 

6.胃陰帖虚

【症状】胃脘隠痛(しくしくと痛む)、口咽乾燥、大便乾秘。舌質は紅、少津、裂紋、脈は細数である。

 

【証候分析】肝鬱化火あるいは慢性熱性疾患による鬱熱内生、胃陰損傷、胃失濡養の  ため、胃脘部隠痛が生じる。陰虚、津液不足のため、潤いを失い口咽乾燥をみる。大腸津傷による乾燥のため便秘をみる。舌が赤、少津、脈が細数は陰虚の証候である。

 

【治法】養陰益胃。

 

7.脾胃虚寒

【症状】胃脘隠痛、清水を吐き、食欲不振、精神不振、甚だしい場合は手足の冷え、大便稀薄。舌質は淡、脈は虚弱または遅緩である。

 

【証候分析】虚寒証のため隠痛、得温痛減、喜按、空腹時増悪、食後減軽をみる。中気虚寒、水飲内停のため、清水を吐く。脾胃虚寒、受納運化失司のため、食欲不振が見られる。脾は筋肉を主る。脾失健運、中陽不振のため、筋肉、筋脈が温養されず、手足が冷える。脾虚失運、燥湿失司のため、大便稀薄をみる。舌質が淡白、脈が軟弱は脾胃虚寒、中気不足の証候である。

 

【治法】温中健脾、和胃止痛。

 

嘈雑(そうざつ)

嗜雑は空の胃から生じる不快な音、胃部の不快感を伴う症状である。その病因は胃熱、胃虚、血虚に分けられる。

 

(1)胃熱:嘈雑、口渇、喜冷飲、口臭、心煩。苔は黄、脈は数である。治療は 和中清熱法を用いる。

(2)胃虚:嘈雑、口淡、無味、食後院脹。舌質は淡、脈は虚である。治療は健脾和胃法 を用いる。

(3)血虚:嘈雑、顔色萎黄、唇淡、心悸、目眩。舌は淡紅、脈は細である。治療は補益心脾法 を用いる。