問診
現病症を問う
問大便(大便を問う)
大便の排泄は、大腸に直接に支配されるが、脾の運化、肝の疎泄、腎陽の温煦などの働きも不可欠である。
健康な人は、毎日あるいは一日おきに一回排便し、便は固くも柔らかすぎることもなく、また便には血、粘液、未消化物が混じっていない。大便の回数、性状、色、およぴ排便感覚の変化を通じて、疾病の寒熱虚実を判断できる。
1.排便回数
(1)便秘
便秘とは、排便困難で回数が減少することで、ひどい場合は数日か ら一週間おきに排便する。これは腸管津液の虧虚と大腸伝導機能の低下による。
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高熱、腹満脹痛、口渇、舌質が紅で舌苔が黄燥などの症状を伴うものは、裏実熱証に属する。これは裏熱亢盛で津液が損傷され、大腸が乾燥して糞便が硬くなり排出しにくくなり起こる。
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顔面蒼白、手足が冷たい、口が乾かない、または熱いものを好む、舌質淡白などの症状を伴うものは「冷秘」という。これは、陰寒が腸内に凝滞し、気機が滞って便の通過が悪くなるために起こる。
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倦怠無力、少気懶言、顔色と舌質が淡白、脈が弱いなどの症状を伴うものは、気虚証に属する。気虚でその推進作用が低下し、腸の伝導が弱まるために起こる。これは、久病、老人、術後、虚弱体質などによく見られる。
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そのほか、陰血虧虚で腸管を潤すことができず、便秘をきたすこともある。
(2)泄瀉
排便回数が増え、便が希薄で、あるいは水様を呈して形にならないものは「泄瀉」という。その原因は様々あるが、よく見られるものが以下に挙げられる。
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神疲乏力、食欲不振、脘腹隠痛、顔色と舌質が淡白などの症状を伴うものは、脾気虚に属する。脾虚で運化機能が低下し、大便が希薄になって回数が多くなる。
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早朝未明、腹痛で下痢、手足が冷たい、腰酸、顔色と舌質が淡白などの症状を伴うものは「五更泄瀉」といい「腎瀉」「黎明瀉」「鶏鳴瀉」とも呼ばれ、腎陽虚に属する。腎陽虚で脾土を温めることができず、また朝方という時間帯は、陽気はまだ弱いので、腎陽虚の人は、その時間に泄瀉が起こりやすい。
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脘腹脹痛、曖腐呑酸、泄瀉の後、腹痛が軽減し、舌苔厚膩などの症状が現れるものは、食積である。脾胃運化機能を超える量を過食したため食べ物が消化されずに排出される。未消化の糟粕を排出すれば、痛みが軽減する。
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情志抑鬱で腹痛泄瀉、排便後腹痛が軽減し、弦脈などの症状が現れるものは、肝鬱犯脾である。これは、肝気が鬱結して横行し脾土を乗したためである。
2.便質(性状)
便質の異常は、以下のようなものがある。
乾結と乾燥:
大便が硬くて乾燥するものをいい、常に便秘を伴ってともに現れ、いわゆる「大便秘結」である。
希薄:
軟らかくてドロドロとした大便を「大便溏薄」といい「便溏」と略称し、すなわち泥状便のことである。ひどい場合、水のように薄い水様便となる。
完穀不化:
大便に未消化のものが多く混じることで「下利清穀」ともいう。脾虚泄瀉と腎虚泄瀉の場合によく見られる。
溏結不調:
大便が溏薄したり乾結したりすることで、肝鬱犯脾に属する。
先乾後溏:
排便時、先に乾結な便が出て、後に溏薄な大便が出ることをいい、その多くは脾虚に属する。
下痢膿血:
大便に膿や粘液や血などが混じることで、すなわち膿粘血便である。大腸湿熱が考え られる。
便血:
すなわち血便である。大便がタールの様に黒いのは遠血(深部からの出血)であり、便血が鮮紅なのは近血(身体の浅い部位の出血)である。
3.排便感覚
肛門灼熱:
排便時、肛門に熱感があるもので、大腸湿熱によるものが多い。
排便不爽:
大便が出にくい、または排便の後すっきりしないは、気滞と湿熱が考えられる。
裏急後重:
便意が頻繁で、また腹痛になると便意を催すのは「裏急」という。排便してもすっきりしない渋り腹は「後重」という。大腸湿熱が原因である。熱が腸にこもると、便意を催し、湿の粘滞で渋り腹をきたす。
滑瀉失禁:
大便を思うのようにコントロールできない、または知らずに出てくることで、いわゆる大便失禁である。久病、高齢、慢性泄瀉などの場合は、脾腎陽虚に属するが、新病、急性泄瀉、意識不明の場合は、脾腎陽虚ではない。
肛門気墜:
肛門下垂感があり、ひどい場合脱肛を伴うことである。これは脾虚中気下陥に属する。