中医学の「肝」

肝は剛臓であって昇を主り、主動性を持っている生理的特徴がある。そのため「将軍の官」といわれている。

 

 

位置と形態:

上腹部に位置し、横隔膜の下、右脇の内にある。

 

 

主な生理機能:

  • 疏泄を主る。

  • 蔵血を主る。

 

 

五志、五液、五体、五華、五窮と の連係:

その志は怒、涙を液とし、体は筋に合 し、その華は爪にあり、目に開竅する。

 

 

経脈の属絡関係:

足厥陰肝経と足少陽胆経によって属絡関係があるばかりでなく、肝と胆は直接つながっているので、表裏となっている。

 

五行では肝は木に属し、動、昇を主る。肝の主な生理機能は「疏泄を主り」「血を蔵す」 「筋を主る」である。「蔵血」は血液の貯蔵と血流の調節を「主筋」は全身の筋肉、関節などの正常な運動の維持をそれぞれ示している。

 

 

肝の生理機能

疏泄を主る

疏とは疏通、泄とは発散、昇発のことである。「疏泄」 は気機の調節、精神情緒活動、胆汁の分泌と排泄などを調節することを指している。 肝の疏泄機能は肝が 剛臓で あって昇を主り、主動性を持っているという生理的特徴に現れている。これは以下の4 つの面に現れる。

 

 

気機の調節:

気機とは、気の昇降出入の運動のことであり、人体の気血、経絡、臓腑、器官などの活動は主にこの気機運動の作用である。気機が順調でのびやかであるか否かは、肝の疏泄機能が正常であるか否かによって決まる。

肝の疏泄機能が正常であれば気機は スムーズに働き、気血は調和し、経絡は通利し、臓腑、器官の機能も正常に行なわれる。肝の疏泄機能が異常になると、以下のような病理変化が現れる。

 

  • 気機の疏通が悪くなると、気機鬱結という病理変化が発生する。肝気が肝自体、及び、その経脈で鬱結すると、胸脇部、乳房、少腹(下腹部両側)などの局部に脹痛、不快感が現れる 。

  • 肝気の昇発が盛んになり過ぎて、肝気上逆という病理変化が生じる。頭目脹痛、面紅目赤、怒りっぽいなどの症状が現れる。「気めぐれば血めぐる」という関係があるが、気が昇りすぎると、血も気とともに上逆し、吐血、喀血などの症状が現れる。突然意識障害になるものもある。さらに血液の運行と津液の輸布、代謝に影響が及ぶ。血液の運行と津液の輸布、代謝は、気機の働き状態に依存しているため、肝気が鬱結すると、血行も障害され、瘀血を生じると、癥瘕、痞塊などの病変が形成される。女性では生理不順、生理痛、閉経などが現れやすい。 肝の条達機能の失調や肝気鬱滞は、また津液の輸布にも影響を与え、水液代謝障害を起こし、痰飲などの病理産物が形成される。

 

 

脾胃の運化機能を促進:

脾は昇清 を主り、胃は降濁を主っており、脾胃の運化機能の重要なポイントは脾の昇清と胃の降濁のバランスである。この脾胃の昇降が正常であれば、食物をうまく消化、吸収し輸送することができる。肝の疏泄機能と脾胃の昇降とは密接な関係がある。

この肝気の疏泄機能は、脾胃が正常な昇降運動を行うための1つの重要な条件となっている。例えば、肝の疏泄機能が失調すると、脾の昇清機能だけでなく、眩暈、未消化下痢が生じ。

胃の降濁機能にも影響が及び、曖気、嘔吐、院腹部の脹痛、便秘などの症状が現れる。前者は「肝気犯脾」と言い、後者は「肝気犯胃」といい、これを総称して「木旺乗士」と称される。

 

 

胆汁の分泌と排泄:

胆は肝葉の間に附き、胆汁を貯蔵し、肝に連なり、肝胆の経脈は絡属して表裏をなす。胆汁の形成と分泌は肝に由来しており、肝の余気が集まって生成されているといわれるように、胆汁の分泌と排泄は肝の疏泄のうちの重要な一面である。肝の疏泄が 正常であれば、胆汁も正常に分泌、排泄され、脾胃の運化機能を助ける。

しかし、肝の疏泄機能が失調すると、胆汁の分泌と排泄に影響を及ぼし、脇肋部の脹痛、腹満、口が苦い、黄色い水様物の嘔吐、食欲不振、消化不良、ひどいときには黄疸などの症候が現れる。

 

 

情志の調節:

中医学では人の情志活動はすべて「心の神明を主る」という生理機能と関係があると考えているが、また「肝の疏泄」とも密接な関係があるとしている。肝の疏泄機能が 正常であれば、気機は正常に働き、気血は調和し、気分もよくなる。しかし、肝の疏泄機能が失調すると、情緒に変化が起こりやすくなる。これは抑鬱と興奮の2つに分け られる。肝気が鬱結すると憂鬱状態になりやすく、わずかな刺激を受けただけでも、深い鬱の状態に入りやすい。

 

また肝気が昇発しすぎると、イライラしやすくなり、わずかな刺激でも怒りっぽくなる。これらは肝の疏泄機能が精神情緒に及ぶ影響である。一方、外界の精神的刺激、とくに「怒」は肝の疏泄機能に影響を及ぼしやすく、これにより肝気鬱結、或いは昇泄過多の病理変化が起こることもある。

 

「肝は疏泄を主る」には上記の4つの面があるが、相互に関係があり、相互に影響しあう。 気機の失調は精神情緒の活動に影響するとともに、胆汁の分泌、排泄にも影響を与える。

胆汁の分泌、排泄が異常になると、脾胃の運化機能に影響が及んで気機が失調し、さらに精神情緒活動にも変動が生じることがある。このように、疏泄の4つの面を個別に静止的にとらえるのではなく、相互に関連して影響を与えるという立脚に立って理解すべきである。

 

 

蔵血を主る

「肝蔵血」 とは、血液を貯蔵し、血液量を調節する肝の生理機能を指している。人体各部分の血液は生理的な変動に応じて血流量が変化している。労働や勤務の時には、血液が全身各部位に分布して正常な活動の需要をみたし、休息や睡眠のときには、一部の血液が肝に貯蔵される。このことについて、唐代の王冰は「肝は血を蔵す、心は これをめぐらす。

 

人動ければすなわち血を諸経に運び、人静かなればすなわち血は肝に帰す。肝は血海を主る所以なり」といっている。肝の蔵血機能には人体各部位の血液量を調節する作用があり、肝が血液の貯蔵と血液量の調節作用を持っているため、人体内の各部分の生理活動は、すべて肝と密接なつながりがある。

 

肝の「蔵血」の機能が失調すると、血虚や出血が起こるだけでなく、様々な部位に栄養不良による病変を引きおこす。主に以下の2つの状況が出現する。

 

  • 肝の蔵する血液量の不足で、全身各部位に分布した血液が生理的活動の需要を満たすことができない。例えば、血が目を養えない(血不養目)と、眼がかすむ(目花)、眼の乾燥感や異物感(目乾渋)、夜盲などが、血が筋を養えない(血不養筋)と、筋肉の痙攣、肢体のしびれ、屈伸不利などが、血が衝任二脈に注がないと、月経量減少、閉経などがそれぞれ現れる 。

  • 肝の血を蔵する機能の減退で、月経過多、崩漏(不正性器出血 )、その他の出血などの出血傾向が現れ「肝不蔵血」と呼ばれている。肝の血液量を調節する作用は 、実際には肝の疏泄機能の血液循環に対する働きの1つである。したがって肝の血液量調節の 機能は、蔵血と 疏泄機能のバランスが保たれて初めて正常に行われるのである。昇発過多や、蔵血機能の減退は、各種の出血症を引きおこし、また疏泄のカが不足すると、肝気鬱結になって瘀血が発生する。

 

この他、蔵象学説では「肝は魂を蔵す」という説がある。 魂はすなわち神の変じたものであり、神から派生してできたものである。魂と神とは、どちらも血をその主な物質的基礎としている。心は血を主って神を蔵しており、肝は血を蔵して、魂を蔵している。肝の蔵血機能が正常であれば魂の舎る所があり、魂は安定している 。

しかし肝血が不足して、心血が欠損すると、魂も舎るところがなくなり、驚きおびえる、よく夢をみる、不眠、寝言及び幻覚などの症状が起こるようになる。

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