中医内科学

中医内科学

中医内科学とは、中医理論に基づき内科に含まれる病証の病因病機とその証に対する治療原則からなる臨床学である。内科の範囲は非常に広く、一般的に外感病と内傷雑病の二つに大別される。

傷寒と温病からなる外感病は、六経・衛気営血・三焦の病理変化として現れる証候を分析分類することによって、また内傷雑病は、臓腑・気血・津液・経絡の病理変化として現れる証候を分析分類することによって、弁証論治される。

内科治療原則

正治反治

正治法は逆治法とも称され、最も常用される治療法である。寒者では温め、熱者では冷やし、虚者では補い、実者では瀉す。具体的には、風寒外束に辛温発表法、温熱犯肺に辛涼宣透法を用いることである。

反治法は従治法とも称され、特別な状況に採用される治療法である。患者に現れる寒熱虚実の仮象の証候を通して疾患の本質を捉え、治療を行うことである。寒因寒用、熱因熱用、塞因塞用、通因通用はすべて反治法である。

 

標本緩急

標本とは、疾病の主・次と本・末、および病状の軽重や緩急の状態を指し示すもので ある。一般に標は、疾病の現象と証候を指す。本は、疾病の本質あるいは先病の臓腑及びその病理表現を指す。

病状変化の過程中に、一般には「急なれば則ちその標を治し、緩なれば則ちその本を治す」と「間なる者は並行し、甚しき者は独行す」の治療原則に従って治療を行う。

 

「急なれば則ちその標を治す」とは、疾病発展の過程において、緊急で危険な状態で、患者の生命の安全確保を優先すべきことである。

例)胃脘痛の患者に突然胃大出血がみられる場合は止血を最優先にすべきである。

 

「緩なれば則ちその本を治す」とは、一般に病状が比較的安定している場合、あるいは、慢性疾患の治療原則を指す。

例)陰虚燥咳患者では、燥咳が標であり、陰虚が本となる。高熱、吐血・喀血などの切迫した、危険な症状がない場合は、滋陰潤燥止咳法を用いる。陰虚(本)を治せば燥咳(標)も解消される。

 

「間なる者は並行し、甚しき者は独行す」とは、標と本、共に治療に緊急を要する場合は、標本同治とすべきであり、また標が急であれば標を治し、本が急であれば本を治すという治療原則を指す。

例)咳喘 、胸満、腰痛、小便不利、全身浮腫どなの症状が見られた場合は、疾患の本は腎虚水迂で、標は風寒束肺である。この場合、標と本は共に緊急を要するため、発汗法と利尿法を併用し、表裏双解すべ きである。悪寒、咳喘、胸満など標の症状が見られ、大小便が順調の場合は、標の治療を優先すべきで、宣肺散寒を先に行う。

浮腫腰痛、大小便不利が見られ、風寒外束の証候はなく、軽度の咳嗽しか見られない場合は、本の治療を優先すべきで、補腎通利水道を先に行う。

 

扶正怯邪

扶正は正気を補う治療法である。正気虚弱が主となり、邪気が軽微である、または邪気が除去され、正気が回復しない虚証に適応する。一般的に虚証には気虚、血虚、陰虚、陽虚があり、それぞれ、補気、養血、滋陰、温陽法がある。

怯邪は病邪を取除く治療法である。邪気亢盛、正気未傷の実証に適応する。常用される怯邪療法には発表、攻下、滲湿、利水、消導、化瘀法などがある。

扶正と怯邪兼用の治療法もある。正虚邪実に適応する。具体的に応用する場合は、扶正と 怯邪の同時併用、扶正を先に、あるいは怯邪を先にする方法がある。

 

臓腑補瀉

(1)虚ならばすなわちその母を補う、実ならばすなわちその子を瀉す

臓腑の相生、相克関係に基づき、臨床で運用される治療原則である。

「虚ならば則ちその母を補う」とは、直接虚証になった臓に補法を加える以外に、間接的にその臓の母にあたる臓にも補益を加える事を指す。

例)肺気不足の場合、直接補益肺気の他に、肺の母に当たる脾にも健脾益気を加え、気血の生成を強化して間接的に補益肺気をはかる。

「実ならば則ちその子を瀉す」とは、子にあたる臓の実証によって母になる臓に病が起きる場合に、その子である臓に瀉法を加える治療法である。

例)肝火偏盛で腎の蔵精機能に 悪影響を与え、遺精夢泄などが生じる場合は、子である肝の実火を瀉することによって、腎の蔵精機能を回復させる。

 

(2)壮水制陽と益火消陰

壮水制陽とは、大補腎陰の治療法で、腎陰不足による制陽不能で生じる陽亢の証候を解消する方法である。適応証は腎の真陰不足の証候である。

例)頭暈目眩、舌燥喉痛、虚火歯痛などがある。治療原則は、滋腎水、抑虚陽で、代表処方は六味地黄丸である。その他、滋水涵木法もこの法則から発展したものである。

益火消陰とは、大補腎陽の治療法で腎陽不足による温化失司、陰寒内凝の証候を解消する方法である。適応証は腎の真陽不足の証候である。具体的には、腰痛足軟、下半身冷、少腹拘急、小便頻多、小便不利、浮腫などがある。治療原則は、益腎陽、消陰翳で、「金匱」腎気丸が代表的な処方である。

 

(3)瀉表安裏、開理通表と清裏潤表

臓腑の表裏関係に基づいた治療法である。適応証は臓腑表裏同病である。

例)肺と 大腸は表裏関係をもつ。陽明実熱、大便燥結による肺気壅阻の場合は、瀉表(大腸)、安裏(肺)する治療法がある。また、肺気壅阻不宣によ る大便結燥の場合は、開裏(肺)、通表(大腸)する治療法がある。

 

三因制宜

三因制宜とは因時制宜、因地制宜、因人制宜を指す。

(1) 因時制宜

因時制宜は、四季気候の変化に従い、適切な治療法と方薬を定めることである。人間の生理機能、病理変化は季節気候に影響されることが多く、治療の時に季節の要素を考慮すべきである。

例)春夏の季節には陽気昇発、人体腠理開泄の状態となるので、この季節には外感風寒患者の耗傷気陰を防止するため、辛温発散剤の過剰な投与を避けるべきである。

 

(2)因地制宜

因地制宜は、地理環境、生活習慣を重視し、適切な治療法と方薬を定めることである。

例)同じ辛温発表で、北西の厳寒地区では、比較的に作用の強いものを使い、南東の温暖地区では、比較的に作用の弱いものを用いる。

 

(3)因人制宜

因人制宜は、患者の性別、年齢、体質などの特徴に基づいて、適切な治療法と方薬を定めることである。

例)女性患者においては、月経、妊娠、産後などの状態を考えるべきである。年齢の差異を考慮することも大事である。また治療上、体質の強弱、陰陽偏差が各個人で異なることを忘れてはならない。

 

常用治療八法

(1)汗法

定義:腠理を開泄させ、邪気を排除する治療法である。

適応証:外感初期、水腫、瘡癰の初期、斑疹透疹期。

応用:表証ー辛温発汗、辛涼発汗。裏証ー滋陰発汗、助陽発汗。

注意と禁忌:嘔吐、下痢後、淋証、出血、慢性瘡癰は禁忌である。

発汗程度は、外邪排除までを原則とし、過剰な発汗を避けるべきである。

発汗後に体をひやさないように、また油っこい食べ物を避けるべきである。

 

(2)吐法

定義:病邪及び毒物を吐出する治療法である。

適応証:痰涎壅盛、食積胃院、胃中毒物。迅速に吐出する必要性のある実証のもの。応用:具体的な方法には薬物法と非薬物法がある。

注意と禁忌:病勢危険、老弱気衰、出血、喘息不安、妊娠、産後では禁忌である。また薬物を用いる場合は、反復使用は避けるべきである。

嘔吐後すぐに飲食しないよう に留意すべきである。

 

(3)下法

定義:体内積滞を攻逐し、大便を通泄する治療法である。

適応証:胃腸の邪、燥便停留、水結、蓄血、痰滞、虫積どなの裏実証。

応用:寒下、温下、逐下、潤下、通瘀、攻痰、駆虫法がある。

注意と禁忌:邪が表あるいは半表半裏の場合はこの方法は禁忌である。陽明腑で未実、高齢、津枯便秘、素体虚弱、陽気衰微による排便困難には適応しない。妊娠、生理期間内の使用は慎重にすべきである。下剤の使用量は、外邪排除できるまでを限度 とし、過剰使用を避けるべきである。

 

(4)和法

定義:怯邪と同時に扶正法を用いる。怯邪と正気保護を並行する治療法である。

適応証:少陽証、太陽小陽兼証、少陽陽明兼証、肝胃不和、肝鬱による月経不調、肝木乗土型の腹痛泄瀉。

応用:発汗法、下法、温法、消法、補法と併用できる。

注意と禁忌:病邪が表にとどまり、少陽に至らない者、裏実証、虚寒証では、使用が原則として禁止される。

 

(5)温法

定義:寒邪の除去と陽気の補益を行う治療法である。

適応証:寒邪留滞、熱証から転化された寒証。

応用:回陽救逆、温中散寒法がある。

注意と禁忌:熱証、真熱仮寒、陰虚はこの法は原則として禁忌である。

 

(6)清法

定義:退熱降火、保津除煩解渇を目的とする治療法である。

適応証:熱証(裏熱熾盛)。

応用:辛涼清熱、苦寒清熱、透営清熱、咸寒清熱、養陰清熱、清熱開竅法がある。

注意と禁忌:表邪未解、陽気鬱結による発熱、体質素虚、臓腑内寒には禁忌である。 気虚血虚による虚熱では使用を慎重にする。陰盛格陽による真寒仮熱、命門火衰によ る虚陽浮越の者では使用しない。

 

(7)補法

定義:体内の陰陽気血不足を補い、あるいは虚損した臓腑を補益する治療法である。適応証:正気不足、体弱、逐邪無力のもの。

応用:補気、補血、補陰、補陽法がある。

注意と禁忌:真実仮虚の者は禁忌である。気滞を防止するため、理気薬を併用すべきである。

 

(8)消法

定義:消導法と散結法の二つ治療法からなる。

適応証:食滞停積、あるいは攻下法に反応しない慢性の癥瘕積聚。

応用:消堅、磨積、行気、利尿、消瘀、消食導滞、消痰化飲、消水散腫法がある。

注意と禁忌:気滞中満による腹脹および脾虚による腫満の者、陰虚熱病、脾虚による腹脹泄瀉、完穀不化の者、脾虚生痰、腎虚水氾による痰証、血枯による閉経の者には、この方法は使用禁止である。

 

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